自由ーフリーダムー

オリジナル小説部屋。ときどき二次創作。本とテレビが好き。

小説家を目指すアマチュア作家の修業場所

―幻影獣― 地球事変 げんえいけもの ちきゅうじへん

――ようこそ、『大神(オオカミ)学園』へ。――

 

1・幻の蝶のように

2、鍵と消失

3、スノウ・エンジェル《雪天使》

4、夕の色彩

5、メモリー

6、自由

7、時計草・希望の鐘音

8、ドッペルゲンガー

9、トリックスター

10、無力

11さくらんぼ~ふたりごと🍒

12、空色神話

13、シンデレラ・ミステリー

14、旅人の讃美歌

15、クリスマスの鐘の音―神の詩(死)―

16、あきらと七草

★*エンドロール*★

番外編

☆マジカル・ライブラリー(上下巻)☆

 

*あらすじ*

そこは四方を森林に囲まれた、断崖絶壁の「陸の孤島」。

少女はいなくなった兄のことを追想する。

少年は姉を探し出すため危険な道へと乗り込む。

生徒たちは新たな「来客者」に期待と不安を大きくさせる。

ここは、他とは「違う」学校。

「選ばれた子どもたち」の、骨肉の争いが、始まる。

 

 

+作者メッセージ+

お久しぶりです。桐原ですm(__)m。

また非常にのろまな更新ですが汗、だいぶ溜まってきた新作品をご賞味くださいませ!!( ;∀;)ノ。

 

 

 

 序章 花

 

 愛している、と、誰かが言った気がする。

『お兄ちゃん』

 呼んでみても、兄は居ない。

 知っている。

 有沢百合花《ありさわ ゆりか》は窓の外を見ている。

 スクールバスはどの時間帯もうるさい。男子と女子で乗っているから、身体が密着し合って大変だし、ただでさえ通学時間がかかるのに、その上、今日はクラス替えだ。

 百合花はため息を吐く。

(どうせまたいじめられるんだろうな)

 有沢、気持ち悪い。

 臭い。

 顔が醜い。

 ずっと、ずっと、自分をなじっていられる。

 なぜなら、百合花は本当に、自分の顔が気持ち悪いと思っているからだ。

 窓の向こうの景色に集中する。

 季節外れの雪が降っている。

 粉雪だ。

 さらり、と舞っている。

(日本でこんな景色は珍しいな)

 普通、雪といったら東京では水っぽい雨粒交じりの、みぞれしか降らない。それに今日はまだ十二月だ。クリスマス・イヴにそんな洒落た演出はされない。

『綺麗』

『綺麗ね……』

(……ん?)

 一瞬、眩しい光を感じた。と、同時に襲われる耳鳴り。痛い、と思う間もなく、百合花は、自分を映している窓ガラスの異様さに気がついた。

 黒い髪。気が弱そうな顔。すぐに泣く、と周りの大人たちになじられるその目つきも、百合花は見慣れたはずだった。

(……あれ、どうしたんだろう)

 窓に映る自分は、とても美しかった。

 その子は、紅色の袴を着ていた。

 髪の長さが、百合花よりも少し短い。ショートカットの子だ。

 明るい茶色の髪に、大きなリボンを付けている。

 目の色も優しい。

 百合花とは、違う。

『いいえ、同じよ』

 その子が真正面を向いた。

『私たちは、同じ。相反するけど、同じなのよ』

 あ、あのぅ。

 百合花は困り果て、おどおどと周りを確認する。

 生徒たちは後ろ向きでこちらに身体を押しつけているだけで、何の反応もない。

 自分の頭が、おかしくなっただけだろうか。

 少女の顔が、間近に迫って来る。

『百合花、名前を呼んで』

 身動きが取れなかった。

『いつでも、どこでも、あなたを見守っているわ。

 あなたのことを愛し、あなたの元へ飛んでいくわ。

 だから必ず、未来で出会った時は、私のことを忘れないで。

 時間が、ないの。

 私を、本の中に、閉じ込めて。

 そして、後ろを振り返っては駄目よ。

 あなたの人生を、二度と後悔しないで。

 私は、天使。

 あなたにとって、愛そのもの』

 どうしたのだろう。

 こんなに泣きそうな顔で、なぜこちらに近寄って来るのだろう。

『有沢百合花《ありさわ ゆりか》』

 意識が硬直した。

『あなたを、私たちの物語に、招待します』

 ――そうだ。

 私は、本を読むのが大好きだ。

 学校で居場所がなかった時、救ってくれたのは、色々な作家たちが読ませてくれた素晴らしい世界で。

 だから、私は、自分でも小説を書こうとしたんだ。

 窓ガラスの女の子が微笑んでいる。

『名前は』

 知っている。

 私は、『有沢百合花』だ。

 そして、あなたは『月城雪花《つきしろ せつか》』と『月城雪夜《つきしろ ゆきや》』。

 失くした兄妹で、姉弟、兄弟……、ありとあらゆる名称に言い換えられる、生命の源。

『光溢れる過去の思い出に、帰り着きますように』

 景色の映像が、いきなり変わった。

――主《あるじ》――

 男の人の声がする。

『見つけました』

 それは、黒い髪の。

 ……獣(ケモノ)だった。

『俺の命を、救ってくれる女性を』

 それは、口角を上げ、引きつった笑みを浮かべる。

『す』『き』『だ』『よ』

 ―守獣《しゅじゅう》―

 彼はなぜ、泣き腫らした目をしているのだろう。

『俺の名前は――』

 目の前の、自分の顔が。

「…………ぇ」

 男に、なった。

『俺のことを、助けて下さい』

 そこからの記憶は途切れている。

 聞こえるのは、男のすすり泣き。

 分厚い本を読んでいる、俯きがちに背中を丸めた『彼』の姿が、かろうじて頭の片隅に残っているだけだった。

 

   🌺

 

 百合花は肩を揺すられていた。

「有沢さん」

 名前を呼ばれたが、身体がひどくだるかった。胸の奥の、中心みたいな部分に、熱い塊がドク、ドクと脈打つのを感じていた。心臓の痛みだろうか。

 あの女の子は、どうしたのだろう。

 確か泣いていた。

「……あなた、誰?」

 蚊の鳴くような声で呟いた。

「俺の名前? 俺はね、『‐幻影獣‐《げんえいけもの》』だよ」

「……え?」

「お前の大好きな本の中の人間さ」

 飛び起きた。

 優しい男性の顔が目の前にある。

 百合花は、パチパチ、と瞼を何回か上げた。

「す、すみません、あの……、誰ですか?」

 百合花は、自分の顔がぼうっと蕩けていくのを感じながら、うっとりと見惚れてしまった。

『彼』は、背中に翼が生えていた。

 夜空の色に近い、深い青色の翼。

 髪は銀色に輝いて、天使のように微笑んでいる。

「も、も、もしかして、天使だったりして……」

「……君の世界では、そういう風に呼ばれるのかな」

 男はいつの間にか少年の姿に変わっていた。口調も全く違う。

「僕の名前は『氷月《ひづき》』。絶滅した『雪族《ゆきぞく》』の生き残り。これから君には、つらいことや悲しい出来事がたくさん降りかかって来るけれど、負けそうになったら僕のことを思い出して。そして、あの大切な女の子の名前を、必ず呼んで、あの可哀想な男を、愛してあげてね。自分の力で』

 天使は、消えた。

 青色の羽根が舞い上がる。

 ふわ、と冷たい風が吹く。

 百合花が呆然と、口を開けて「……へ?」と言っている間に、景色は変わった。

 学校の保健室だった。

「ちょっと、百合花。あんた頭大丈夫?」

「あ……」

 親友の片桐奈実《かたぎり なみ》の顔が目の前にある。

「奈実ちゃん?」

「心配したわよ。あんた、バスの中で倒れたんだもん」

 奈実は深いため息を落とした。

「一時限目も始まっちゃうし、二人して遅刻なんて恥ずかしいわ。大体あんたは身体が弱いんだから」

「な、奈実ちゃん、運んでくれたの?」

「私一人じゃ無理に決まってるでしょ。女の子なんて持ち上がんないわよ」

「あ、みんなが運んでくれたんだ」

「馬鹿ね。あの気持ち悪いクソジジイにおんぶされたんだから、後で噂や影口に気をつけることね」

 死にたいと思った。

 

   🌺

 

『いつでもあなたを見守っています。あなたの元に仕え、あなたの行く末を案じております。

 それが私たち、『守獣《しゅじゅう》』の役目ですから――――』

 

   序章2へ続く⇒

 

2018.5.19.土曜日 桐原歌子

オリジナル作品のみの扱いです