自由ーフリーダムー

アイ アム ザ  ゴーイングマイウェイ

ARISA HANSEL ‐物語の始まり‐

ARISA HANSEL

アリサ=ヘンゼル

 

red-pink16.hatenablog.com

 

花凜文学

 

テーマソング

中島美嘉ちゃん!

☆かっこよくて切ない、戦う女の子。

★純粋で、騎士のように守ってくれる男の子。

 

装画 種村有菜先生希望!

 

 

 

太古の魔術書より抜粋

《―亜麻色の髪の乙女、薔薇色の髪の乙女、瑠璃色の髪の乙女―

 其れ即ち革命。

 世の乱れ。

 世の平和。

 世界は形を失くし、また新たなる国が始まる》

 

 

 

                序章 『

 

『ヘンゼル魔法魔術学院・国語の教科書』

 

 ――私が死ぬとしたら、きっとこんな場合だろう。

 魔女は、歩き過ぎて疲れ果てた足を労わりながら、なお前に進む。

 一人ぼっちの魔女には、もう自分以外に頼るものはなかった。世界にはたくさんの魔力があって、いろいろな人間が違う種類の魔力を持つことを、魔女は知識として知ってはいた。だが、限りある寿命の中で、ほんの一握りの人間の『チカラ』しか知り得ないその事実が、魔女を苦しめていた。

 魔女の周りの人間たちは、まるで祟りのように化け物、化け物、と恐れ逃げて、魔女を憎んだ。

 この世界の人間たちは、魔女のことを受け入れてくれない。

 魔女は、一人で生きている。

 生まれた場所は、あの丘の小さな家で。生まれた時間は、九月一日午前零時一分。知っているのはそれだけで、あとは一人で生きてきた。

 魔女、という言葉は蔑称である。

 ほかの人間より桁外れに強い魔力《チカラ》を持つ人間を、それ以外の人間が恐れと嫉妬を込めて『魔女』と言う。

 しかし、『魔女』にはもちろん男も含まれる。

 なぜ差別的な語源に、「女」がいつの時代にも使われるのだろう。

 魔女は、それがよく分からなかった。

 魔力の強い人間が、魔力の弱い人間に虐げられる構図は、どこか滑稽だ。手段によっては、自分のことを蔑む人間を一瞬で塵にしてくれることも可能であるのに、魔女はそれができない。

 もしその選択をしたら、本当に一人ぼっちになると、分かっていたからだ。

 人間がいない世界。

「自分」以外の存在がない世界。

 それがいかに怖い世界であるか、魔女は本能的に悟っていた。

 人間に構ってもらえない魔女の、唯一の友達は、本と動物と自然だった。本には、自分が今いる世界がすべてではないと教わったし、動物とは気兼ねなく「あんたも大変だねえ」「いえいえ」などと世間話ができるし、吹き渡る風とさわさわ揺れる木立、柔らかな日差しだけが、魔女の身体を温かく包み込んでくれた。

 しかし、魔女は直面する。

 人間の持つ闇に。

 自分の持つ狂気に。

 人間たちが、魔女の住処を奇襲したのだ。

 火を放ち、矢を突き刺し、人間たちは呪いの言葉を吐き続け、消えろ、消えろと騒ぎ立てた。

 消えろ、

 消えろ、

 消えろ、

 消えろ……。

 家に引火した火を消すのは容易く、矢は魔女の身体を射すことすら敵わず、魔女の流した涙は、人間たちの叫びを鎮めるには充分だった。

 人間は、それから沈黙を貫いた。

 ここにいてはいけない。

 私は、みんなを殺してしまう。

 魔女は、その日から旅に出た。

 荷物は替えの服と、寝具と、本。

 それだけ持って、魔女は世界を見て回った。

 もといた場所と同じように魔女を恐れる世界もあれば、魔女のような強力な魔力の持ち主を、逆に崇拝し、崇めてくれる世界もあった。魔女と同じような人間だらけの世界もあって、そこにはずっと居たいほど心地よかった。

 けれど、魔女は知っている。

 どこへ行っても、自分はその世界に染まれないことを。

 ほかの色を塗りつぶすような、黒い絵の具しか、自分は持っていないことを。

 だから魔女は今日も、世界を旅している。

 悲しいから。

 寂しいから。

 自分の本性を認めたくないから。

 愛して、いるから。

 誰かを、求めているから。

 魔女の足は、くたびれ、一歩も進めなかった。

 望んだ世界が、見つからない。

『……死にたい。』

 倒れた。

 地面に突っ伏して、手足を投げ出した。

 このままずっとこうしていれば、いくら「魔女」と呼ばれた自分でも、さすがに餓死するだろう。

 私が死ぬとしたら。

 こんな最後なのかな。

 悲しい。

 寂しい。

 苦しい。

 起き上がれない。

『助けて』

 応える者は、いない。

 目を閉じる。

 終わろうと思った。

 すぅ……、と、冷気が通り抜けるような寒気。

 人でない気配を感じた。

 動物でもない。

 魔女の知っている気配ではなかった。

 仄かに甘い香りが伝わってくる。

 ……誰?

 驚くほど冷たく、湿度のこもった柔らかい手のひらが、頬に触れた。

 魔女がかろうじて顔を上げたのは、まだ死にたくない「生」への欲求からか、知らないものへの好奇心からか。

 見た瞬間。

 それは、『夜』だと思った。

 恐ろしいほど凍てついた黒い目。

 真っ黒な髪。

 魔女とは程遠い容姿だった。

 魔女は、正体不明の感情に、激しく揺さぶられた。

 気づくと、大声を上げて泣いていた。

『助けて。

 一人にしないで。

 私の魔力を半分あげる。

 こんな無駄なチカラを持っていたところで、何の役にも立たない。

 私の半分、いやすべてをあげる。望むもの全部叶えてあげる。

 だから私を拒否しないで。私を受け入れて。』

 最後は言葉にならなかった。

『夜』にすがって大泣きする魔女。

 かぐわしい匂いが鼻をかすめる。

『彼』は、ただ寄り添っていた。

 何も言わなかった。

 魔女は泣き疲れて、眠りに落ちた。

『夜』は、魔女を膝の上に抱え、頭を撫でてくれた。

 ああ。

 ずっと待っていた気がする。

 こんな優しさを持つ誰かを。

 初めて心から安心し、魔女は眠りについた。

 彼女の頬に、一滴、冷たい水が落ちた。

『夜』の目からあふれた、涙だった。

 ――その日から、魔女は果てしなく長い、永久の夢を見る。

 

next stage 「ヘンゼル王国護衛隊」