自由ーフリーダムー

オリジナル小説部屋。ときどき二次創作。本とテレビが好き。

小説家を目指すアマチュア作家の修業場所

MISSING WHITE   ミッシング・ホワイト

 

red-pink16.hatenablog.com

 

 あらすじ

作者:魔の花より。

 

アンティーク・ドール

それはこの世の平和。

この世の武器。

ある国の少女は王宮の社交界に呼ばれ、階段を上る。「死」がすぐそこへ迫っていることを知らずに。

王子は地下に幽閉されている。

麗しい顔をした人間そっくりの「人形」たちが、少女へと襲い掛かる。

母は待っている。

時が訪れるのを。

「アディ」

名前を呼ばれ、人形は行く。少女の救出へ。

「私の娘を、壊れるまで守り抜きなさい」

――承知しました。『私の母』。

 

オーシャン大陸北部、『二月帝国』の内乱が、勃発した。

 

*scene1*

 

 目が覚めると、そこはたくさんの木彫り人形や工具が散らばっている乱雑な部屋だった。

『彼』は、椅子に座らされていた。

 数回、まばたきをする。そして腕を動かしてみる。痛いところはない。足踏みもしてみる。どこにも異常は見当たらなかった。

 自分が椅子に座っているのを把握すると、ゆっくりと立ち上がり、振り向いた。

 亜麻色の長い髪。

 亜麻色の瞳。

 薄汚れた作業着を着た、三十代後半ほどの女性が、顔色を悪くして立っていた。

 ああ、自分の『創造主』だ――。

『彼』は本能の命ずるままに、彼女のもとにひざまずいた。

「……調子はどう、アディ?」

 女性が疲れの滲んだ声で口を開いた。どうやら自分の名はアディというらしい。

『彼』は、頭の中に浮かぶ女性の名を口にした。

「良好であります。エリザベータ様……」

 自分を創った『創造主』の名は、自然と頭の中に刻み込まれていた。

 女性は肩で息をしながら、ひざまずいている『彼』を見下ろして、優しく言った。

「……立ちなさい」

 女性の声はまるで魔法のように、『彼』の身体を動かした。『彼』は言われたとおりに立ち上がる。すると女性を見下ろすような格好になった。

 自分はかなり大きく創られたようだ。

「……アディ、あなたにはこれから、この国の歴史、また隣国の言語を覚えてもらうわ」

 疲労の残る顔で、『創造主』は言った。

「とうとう知られてしまった……。私の娘が、『あれ』を宿していることを……」

『創造主』は目を伏せた。

「あなたを創った目的はただ一つ……。私の娘を、一生涯かけて守り尽くしてほしいの。長くても一週間……、教育させてもらうわ」

「はい。よろしくお願い致します」

『彼』は、女性の手を取って、誓いのキスを掌にした。女性は苦笑いを浮かべる。

「……私は、罪深い人間よ……。命を犠牲にしてきた……。自分の娘のためだけに、あなたを……」

エリザベータ様、私はそれで幸せです」

『彼』は断言した。

 苦笑いを返される。

「そうよね……、『アンティーク・ドール』……」

 自分を責めるような笑顔で、『創造主』は悲しむ。

 何とかしてあげたいと、『彼』は本能で相手を抱きしめた。

 口付けようと顔を向かせると、『創造主』は「やめなさい」と否定した。すぐに退く。

 沈黙が下りる。

 頭がくらくらするような、眩暈に似た陶酔感が『彼』を襲う。

アンティーク・ドール、アディ。今から一週間、娘のために教育を受けてもらいます。そして一週間後、出発しなさい。娘を守るために」

『彼』は本能の命ずるまま、頭を下げた。

「承知しました、『我が母』――」

 

   ☆★☆

 

   第一章   サファイア

 

 ぬいぐるみ職人になる。

 エリーゼ=シュヴァルツは、幼い頃から自分に誓っていた。

 きっかけはたくさんある。母と父が行方不明で、生きているかも確認が取れないから、政府の「配慮(、、)」によりここへ来たこと。遠い親戚にあたるダムおじさんとシーラおばさんは、嫌な顔をしながらも育ててくれたこと。おかげで十四歳になれたこと。だから今度こそは自分でお金を稼ぎ、自分の足で旅に出ること。両親を捜し出す夢の旅行は、きっとお洒落な『ゼンマイ式列車』で、春の日差しを浴びながら、凍りついた川に咲くあのピンク色の外来種に見守られ、いつまでもずっと終わらない永遠の……。

「なんてね」

 エリーゼは妄想をやめ、止まっていた手を動かした。

「早く内職を終わらせなくちゃ」

 依頼されたぬいぐるみ制作の資料に目を通し、「あと少しよ」と自分を励ます。シーラに徹底された裁縫の技術は、今では傷ついた子どもたちのための「夢のぬいぐるみ」として評判を集めているから、これが当たれば家は貧乏から抜け出せる。お金持ちになり、安心で暖かい寝床で眠れるのだ。ダムとシーラにしごかれたおかげで、エリーゼは前よりずいぶん神経が太くなった。もう滅多なことでは泣かない。

 シュッ……、と指でつまんだ針が布の上を滑る。だんだん自分の手がノってきたようだ。

 

 シュッ……、

 

 シュッ……、

 

 シュッ……、

 

 エリーゼはこの瞬間が大好きだ。ただの布からこんな膨らんだ球体ができ、手足がくっついて、目は埋められていく。かわいい。よし、最後は完璧に出来上がった。

「終了!」

 二重止めを施して、エリーゼは仕事を終えた達成感にしばし酔いしれた。

「かわいいなあ、お前」

 手に掴んでいる顔を引き寄せ、間近で見る。自分で作ったのだから愛着はあって当然だが、「彼」は少し悲しそうな顔をしていた。

「ちょっと怒ってる。無愛想なぬいぐるみになっちゃったかな」

 けれどエリーゼは紐をほどくことなく、ほかの完成作品とは別の場所に置いた。なぜだか手放せなくなってしまったのだ。

「変なの。ぬいぐるみはとっくに卒業する年なのに」

 自分は十四歳だ。年下の子どもたちの面倒を見るべき立場である。

 しかし、心がちくりと何かを訴えた。久しぶりに身体が痛み始める。座り続けて作業をしていたため、足が痺れていた。

 トントン、と扉を叩く音がした。

 しまった! 間に合わなかったか!

 エリーゼは、とっさに振り返った。

 ギッ……、

 ドアが回される音が、こんなに不気味に聞こえるのはいつ以来だろう。

(お前いつまでやってんだ!!)

(ごめんなさい、ごめんなさい!)

 激しく呼吸が乱れる。息はどうやって吸って吐き出していたのか、分からなくなる。

 怖い目をした取引先の男が、部屋に入ってきて……、

「きゃあっ!!」

 エリーゼは飛び上がった。

 反射的に後ずさると、男はきょとんとしていた。

「リゼ?」

「あ……」

 入ってきたのは、父親役を買ってくれているダムだった。

「どうしたんだい?」

「ダムおじさん……」

「なんだか顔色が悪いぞ? 無理していたのか?」

「……うん」

 ダムは穏やかで滅多に怒らない。エリーゼは引き取られた時からずっと彼に懐いていた。

「……大丈夫、何でもないの。これ、全部終わったから包装しなきゃ」

 エリーゼは震える身体を、何とか落ち着かせた。

 ダムは何か言いたそうだったが、ゆっくりとドアを閉めた。

 足音がだんだん遠ざかる。自分の持ち場へ戻ったのだろう。

 エリーゼはもう一度、呼吸を整える。

「……さあ、仕事だわ」

 すっくと立ち上がった。

 もうすぐ夜が明ける。時間はぎりぎりだった。

 先ほど別の場所に置いた、あのぬいぐるみ一体も合わせて箱にぎゅうぎゅうに詰める。そしてリボンを引っ張り、ささっと結んだ。

「これで完成!」

 エリーゼはとびきりの笑顔を、箱の中のぬいぐるみ百体に向けた。

 小走りで玄関へ向かい、荷物の最終確認をする。記入漏れはない。

 エリーゼはほっと胸をなでおろし、全部で三十箱ある今日の分の資材を太い縄で縛りつけた。荷物が落ちないための苦肉の策だ。

「よしっ!」

『ゼンマイ』は、今日も調子がいい。エリーゼの高ぶった気持ちに答えるように、キラキラ輝いている。

「行こうか。トコトコ」

 自分で勝手につけた名前を呼ぶと、『トコトコ』もブルンッ! とエンジン音で応えた。

エリーゼは運転席に乗る。

「出発!」

『ゼンマイ』がグルッ、と回転した。

 

 ドッ!!

 ドッ!!

 ドッ!!

 ドッ!!

 

 稼働音が馬の嘶きのように吠える。

 エリーゼの気持ちもどんどん高揚していく。

 ハンドルを握る。すばらしい景色が、目の前に広がっていくような気がする。

 扉は自動で開く。エリーゼの家は運送屋だ。薄暗かった場所が、左右に分かれる。いつも通りの凍った道路が視界に入り、切り裂くような冷たい風が頬に突き当たった。

 キャスケット、耳当て、ゴーグル、首に巻き付けた『シュシュ』という名前の長いマフラー。唇は寒さを防ぐための、魔法をかけた『リップ』で守られている。

 

 ドンッ!! 

 

 エリーゼはアクセルを踏んだ。

『トコトコ』は、キラリとまばゆい光を放ち、前へ発進する。

「徹夜した分、給料は倍もらうよ!」

 ハイな気分で、エリーゼは叫んだ。

『トコトコ』はまだ小さな少女を守るように、実際の『ゼンマイ車』より幾分スピードを落として走り始めた。

 

   ☆★☆

 

to be continued, 魔花

オリジナル作品のみの扱いです