読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

花凜文学創作所

自由気ままな創作表現

エンタメ私小説第二話「微熱」後編

第一話「微熱」前編につづき、後編を書き上げました。('ω')ノ

 

さて、この私小説(エンタメ寄り)はこれから一体どうなるのか……。

小学校から始まっているから、中学、高校、大学と行くんだろうけど、私の精神が飽きないか不安だ(笑)

一応オチは決めてます。オチてほしいどうか。

 

 

   私〈I am……〉

 

   第二話 微熱(後編)

 

 

 帰り道、私たちは九人で固まって歩いた。女の子が九人も集団でいれば、無敵である。

「あーちゃんたちは、男と正面からぶつかっちゃうからだめなんだよ」

「そうだよ。うまくかわすのよ」

 クラスで可愛いと言われている佐々木さんと仄香(ほのか)ちゃんが得意げに言った。

「どうやるの?」

 尋ねると、二人はにやりと笑んだ。

「私、ブラジャーつけてるの」

「私もお洒落なやつをね」

「うそ、もう!?」

 みんなびっくりして、話題は一気に自分たちの身体のことになった。

「私六年なのに、胸が大きくならなくて・・・」

「あんた、今年生理が始まったばかりだしねえ」

「そういう人は中学か高校で突然ナイスバディになるんだって」

「えー、本当?」

「だってお姉ちゃんが言ってたもん」

「私もお姉ちゃんいるんだけど、高校生になってからいきなり綺麗になっちゃって、モテ始めたんだよ!」

「じゃあ小六でセクシーになったらだめじゃん」

「早熟ってやつ?」

 キャハハハ、とみんなの笑い声が空に吸い込まれていく。大人の通らない帰り道は、女の子だけの特別通学路だ。

「それでね、ブラジャーはあまり派手な色じゃなくて、白を選ぶの。ちょっとした花の刺繍とかは効果的。そして肌着は体操服に着替えるときに脱いじゃって、ブラジャーと上だけにするの。そうすると今日みたいに激しいスポーツだとブラジャーが揺れて、胸が揺れてるように見えるのよ。お腹もチラ見せ程度に見せて、わざと苦しそうに走るの。そうやると色っぽく見えるんだから」

 えー? とみんなが訝しげに返す。仄香ちゃんは自信たっぷりにささやく。

「みんな騙されたつもりでやってみてよ。男はブラジャーが大好きなのがわかるわ。単純な生き物だから、絶対に態度を変えてくれる。私たち女の子なんだから、もっと賢く、強く、したたかに生きなきゃ」

 仄香ちゃんがそう言うと、不思議と男に最初から勝てているような気持ちがわいてくるから、すごい。

「あーちゃんも、とびっきり可愛いブラジャー買ってもらいな」

 佐々木さんがちょっと悪そうにほほえむ。

「スポーツブラでもいいの?」

 聞くと、佐々木さんと仄香ちゃんは「うーん」と唸った。

「あーちゃんってか弱いから、そこを最大限に利用しないと」

「そうだ、スカートをもっと大人っぽくしよう! 今みたいなキュロットじゃなくて、膝まである長いスカートを履くの。色合いも落ち着いたレディ風にするのよ。高校生のファッション誌を参考にしよう」

「え、中学でいいじゃん」

 佐々木さんが割っても、仄香ちゃんは「だめよ、高校生じゃないと大人じゃないわ」と首を振らない。

「あーちゃんは、不思議な魅力があるのよ。ミステリアスっていうか、色っぽいところがあるの」

「そうかなあ」

 私がつぶやくと、仄香ちゃんは力強くうなずく。

「きっと今の年齢と洋服が合ってないんだわ。あーちゃん、お母さんに服を用意してもらうのはやめなさい。本屋さんに行って高校生の雑誌を買うのよ。上品レディ路線で攻めていけば、男なんか簡単に黙らせるわ」

「じゃあ、今本屋さんに寄っていい?」

 わあっとみんなが盛り上がった。

「行こう、行こう! 門限まで寄り道しようよ!」

「ついでにショップも押さえとこう」

 女の子は話が決まると早い。私たちは道を外れて駅近くへと歩いていった。

 

   ++

 

 学校にいるときはあんなに具合が悪くなるくせに、みんなと一緒に寄り道してはしゃぐとなると、たちまち私は元気を取り戻す。それはみんなも同じらしく、学校よりもここに内緒で遊びにいくときの方が、私たち九人は仲良くなった。

 雑誌を買ってみたものの、載っている服はどれも高くて、実際にショップのお姉さんに聞いてみることにした。みんなでお行儀よく観察していると、お姉さんの方から声をかけてくれた。

「みんなどこから来たのー?」

愛宕(あたご)でーす」

「じゃあ遠かったでしょう」

「大丈夫でーす」

 お姉さんは二人ほど来て、私たち九人に「こんな服とかどう?」といろいろ見せてくれた。

「あ、あなたは上品なお嬢様風が似合うかも」

 店員さんはにこやかに話す。

「ほら、私の言った通りでしょう?」

「うん、仄香ちゃんすごい」

「そっちの仄香ちゃんは、ちょっといい女風のファッションに挑戦できるんじゃない?」

「本当? じゃあやってみます!」

 着替えると、店員さんが嬉しそうに「似合うー!」と褒めてくれた。

「今の子ってみんな大人っぽいねー」

「子どもの服もすごくお洒落になってるよね」

 店員さんは私たちのことを気に入ってくれたらしく、トータル五千円以内で買えるショップリストを教えてくれた。

「ここは田舎だけど、都心方面に行ったらもっとかわいい服がたくさんあるよ」

その言葉に心が躍った。洋服でこんなに自分が変わるなんて、今まで思ったこともなかった。

「あ、でも私、お母さんが……」

 一人の子がか細い声を出した。まだ背が小さくて身体も細い、生理が来なくて悩んでいた子だ。

「お母さん厳しいの?」

 佐々木さんが聞くと、その子はこくりとうなずいた。

「子どもが服に五千円も使うんじゃないって……」

 あー、とほかの子もため息を落とす。みんなもお母さんと上手く行っていないのか。

「お母さん、こんなに買ったら怒るかも・・・」

「っていうか、出してくれないよね。私たちに」

「うちも親が指図してくるかもなあ」

 その場に意気消沈したムードが流れていると、仄香ちゃんがわざとらしく鼻を鳴らした。

「もう! みんなお馬鹿ね。何のために父親がいると思ってんのよ」

「あー!」

 仄香ちゃんの言葉で、みんながまた盛り上がった。

「そうか、お父さんを利用すればよかったんだ!」

「給料日の週を狙うのよ。だいたい月半ばから後半にかけてもらえるから」

 そうと決まると話が早い。私たちはお姉さんに「土日にお父さんと一緒に来ます!」と告げて買う洋服を決め、「やばい、門限だー!」と急いで家に帰った。

 

   ++

 

 帰り道、私たちは駆け足で駅道から抜け、坂の上に立つそれぞれの住宅地へ向かって走った。夜の始めの空が冷たい空気を運んで来て、ついこの前あったはずの運動会が遠い季節のように感じられた。あの時はあんなに暑かったのに、今はもう秋の気温だ。

「あーちゃん! 服買うのよ、絶対買うのよ!」

 仄香ちゃんが今まで見たことないくらい、キラキラした満面の笑みで私に手を振った。遠ざかった仄香ちゃんは、いつものちょっと高飛車な仄香ちゃんに戻り、佐々木さんと一緒に階段を駆け上っていった。坂道を上る私たちはそれぞればらけて、学校のときの四人グループになった。

 私の家は坂を上っても一番低いところにあり、五階建てのマンションが七つほど坂に沿って連なる中の、三号棟の部屋だ。

「今日は楽しかったね」

 雪乃が満足したように言った。そういえば三人と全然しゃべってなかったと、私はみんなをあわてて振り返った。

「仄香ちゃんたち、味方だったのか。てっきり深山(みやま)さんたちと同じだと思ってた」

 理穂がそうつぶやいて、私もはっとした。仄香ちゃんは少し気位の高い人だから、四人で固まっている私たちのことは興味にないと思い込んでいた。

 まだ熱に浮かされているのか、身体が熱い。それとも全力で走った反動か、額から汗がだらだら垂れてきた。

「あーちゃん、また熱がぶり返してきた?」

 実加が私の顔をうかがう。実加は理穂の影に隠れがちだけど、人の顔色や体調の変化を感じ取るのが一番うまいのだ。

「大丈夫。たぶん微熱だから」

 身体が少しばかりきつくなってきたけど、気分はとても晴れやかだった。仄香ちゃんが男子に勝つ方法を教えてくれたから。

「また明日ね」

 三人が手を振って、白い階段道を上っていく。雪乃は階段を出たところの十一階建てのマンションへ、理穂と実加は駅から一番遠くて学校に一番近い団地群へ帰っていく。私は玄関口で、三人が階段を上りきり姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。

 

 三話へつづく