花凜文学27’

アイ アム ザ  ゴーイングマイウェイ

エンタメ私小説、執筆開始!

こんにちは。('ω')ノ

 

エンタメ的な私小説を目指して書き上げたものができたので、第一話を発表します。

 

自分のことを題材にした小説ですが、エンターテイメント要素をふんだんに入れたので、ほぼフィクションです。

 

主人公のキャラは自分そのものなんですが、出てくるキャラもほぼ現実の人たちの性格とはまるで違うので、「自分」(名前も違います)の記憶の中の思い出を主観的に書いた世界となります。

 

そのため客観性を持った作品になっているのか微妙であるため、読みずらいかもしれません。そのときは「アマチュア作家のエッセイ・フィクションなんだな」という風に流してくれれば嬉しいです(笑)。

 それではどうぞ!

 

 

 

   私〈I am……〉

   第一話 微熱(前編)

 

 運動会に合わせて熱が出たとき、涙が出るほどうれしかった。

 母はかわいそうにと私の頭を撫でてゆっくり寝させてくれたし、りんごを砕いてヨーグルトにまぶした「りんごヨーグルト」を作ってくれるから、ずっと布団に潜り込んでいつまでも寝こけていたかった。

 食べたりんごの皿を母に返して、読みかけの本や畳の床に散らばっている漫画を布団から出ずに手に取る。むずかしい漢字が読めなくても、熟語の意味がまだ理解できていなくても、ずっと読んでいられた。

 それはすとんと落ちてくる。ページの文字を追ううちに、頭の中で別の世界が見えてくる。それは今読んでいる本だ。丸まって本を抱くように読み込んでいる「実際の私」と、頭の中で自由に世界を作り、対面している本の世界観を自分で解釈してイメージ通りの景色を描き、そこで生きる人々が見え、会話し、その世界独自のルールを守って夢と愛の冒険を、ドキドキわくわくしながら思いきり楽しむ「創造の私」が、自分という器の内部にいる。

 本が多ければ多いほど、漫画が多様であればあるほど、私の心は踊る。

 畳の部屋で、ふすま越しに母が家事をしているのが見えた。私のために買ってきた新しいビデオカメラは、しかし使われることはなかった。当日に熱が出て起き上がれないと私が泣きながら訴えたからだ。

 私は滅多に大声を上げない。あまりに大人しく泣くので、そのまま横たわって死んでしまうんじゃないかと母や周りの大人たちによく心配された。実際、それは正しかった。私は生きる気力がない。母がご飯を用意しなかったら、何も行動を起こさずただ横になって目を閉じる。それが仮に何日も続いたら、私は間違いなく死んでいるだろう。だから母はいつも必死になって私に食べ物を食べさせようとする。母が優しいおかげで生きながらえていると言っても過言ではないだろう。私は無抵抗のまま死んでいく人間だ。何のために生まれたのかもわからずに。

 母がふすまをあけて「文絵(あやえ)、具合はどう?」と聞いてくれた。

「うん」とだけ返した。母が返答してくれるのを待つ。

「何もこんな日じゃなくてもねえ。最後の運動会だったのにね」

「うん……」

 それ以外は何も言えなくて、またじっと母を見る。

「まあ、五年生までの記録はビデオにあるんだから、六年生がなくてもいいか」

 母はそう笑うと、「あとは卒業式だけだね、体調気をつけて。あと一日休んだら学校行きなさい」と言ってふすまを閉めた。

 明日も休めるんだ! 私は胸がウキウキするのを感じて、布団の中で何度も寝返りを打った。こんな一日が明日も続くなんて夢みたいだ。

 一人きりの畳の部屋は、涼しい匂いと窓から差し込んでくる夕日で、明るくオレンジ色に光っていた。明るいのに暗い、でも静かで優しい居心地だ。まるで暖炉の部屋のようなほっとする穏やかさと暖かさにいつまでもまどろんでいたかった。暖炉は本でしか見たことないけれど、きっと畳の部屋と同じくらい、外国の人にとって大切なくつろぎ場所なのだろうと、布団にもぐりながら私は空想していた。

 畳の部屋が、好きだった。

 

   ++

 

 学校に登校するときは、いつも緊張する。

 私に敵意のある人が多いからだ。

 どういうわけか、私を目の敵にしていじめる人が後を絶たない。一年生からずっと、男子に暴力を振るわれるし、女子には気の強そうな意識の高い人たちに集中的に嫌われるし、小学校に入学してからというもの、一度も心の休める日が来たことはない。今日もすれ違いざまに敵グループの女子たちが「三月さん、来たよ」となぜかニヤニヤしながらこちらをちらちら見てくるので、自分の顔に食べカスでもついているのだろうかと鏡を見たくなった。やっと教室につき、友達の雪乃(ゆきの)に「私、今日の格好は変じゃないよね」と確認する。雪乃は「文絵はいつでも変じゃないよ」と力強い言葉をくれた。

「あまり一人で行動しない方がいいよ。何なら、私が文絵を迎えにいって一緒に登校したっていいんだし」

「雪乃にそこまで迷惑かけられないよ。私の家なかなか遠いから、雪乃の負担が大きくなるじゃん」

 私が笑うと、雪乃はそれ以上何も言わず、別の話を出してきた。話題をそらしてくれたおかげで私は雪乃とのおしゃべりに集中することができ、後ろの席の方で敵チームの女子の視線が痛く入ってくるのも我慢できた。

 登校時間ギリギリになって、明るい茶髪のショートカットの女の子が、迷彩服の決まった格好で教室に飛び込んできた。あとを続くように黒髪ショートの女の子もジャケットにジーンズ姿で滑り込む。予鈴まであと二分だった。

 女の子二人は迷わず私たちのところへ来て「おはよー」と息を切らしながら挨拶をした。雪乃が「おはよう」といつもの落ち着いた声で返し、私が「理穂(りほ)、実加(みか)、おはよー」と笑顔を作ると、二人は私の頭をくしゃくしゃ撫でた。

「今日も可愛いでちゅねー」

 理穂がわざと調子を崩した言葉で冷やかし、それに実加がげらげら笑った。二人は敵チームから私を隠し、テンションを上げて陽気な空気を作った。視線をブロックしてくれた二人は、おもしろい話を持ち上げて私を笑わした。雪乃が少しつらそうだったが、私がいるからだろう、気を使って笑ってくれた。理穂と実加が雰囲気を盛り上げてくれて、雪乃がずっとそばについてくれて、こんな風に私は友達三人から助けられていた。

 

  ++

 

 松田理穂(まつだ りほ)。最初に会ったとき、彼女は金髪だった。今だって金に見えるほど明るい茶色だけど、会った当初の理穂は服も男の子っぽい活動的な見た目で、この小学校で髪をその色に染めているのは彼女だけだったのもあって、やはり有名だったらしい。男子を泣かすのが大得意で、喧嘩をさせればたいてい勝った。周りから怖がられていたが、なぜか最初から私に優しかった。いつ出会って仲良くなったのがよく思い出せないくらいに、自然とそばにいるようになった。理穂はいつでも強くたくましいのだ。

 

 真鍋実加(まなべ みか)。理穂と常に行動していろいろなことをやらかすやつだと言われている。理穂と同じように毎日ボーイッシュな服で過ごして、理穂と同じくスカートは絶対に履かない主義だった。保育園が一緒で、そのときは私と一、二を争うくらい泣き虫ですぐに泣いちゃう小さな女の子だったのに、入学して時間が経つうちに、いつの間にか私を追い越して強くかっこよくなった子だ。実加は理穂と意気投合して、二人で荒っぽい言葉遣いで自由に無敵に過ごしている。

 

 中島雪乃(なかじま ゆきの)。最初に会ったのがもう思い出せないくらい、ずっと私の半身のようにそばにいてくれる子が、雪乃である。最初は漫画が好きで、絵を描くことも好きで本もよく読むという同じ趣味仲間だったのが、互いの家に行き来して二人で冒険ゲームに夢中になった。雪乃は親のいないときを見計らって私の家にずっと通い、二人で新しいゲームに挑戦して一緒にレベルを高めた。私たちは同士であり親友であり相棒である。新しいゲームは四歳上の兄が持っていて、兄はその中で飽きたゲームを私たちにあげていたから、ゲームはやり放題だった。兄はゲーム機も私たちに貸してくれていたので、私たちの精神はゲームによって強くなった。年がけっこう離れているので二人きりだと気まずいけれど、雪乃が家に来て三人になると話しやすいのか、兄は普段より優しく穏やかな雰囲気になって私と接してくれた。両親はゲームの楽しさを絶対にわからない人たちで、他人を家に招くのも好きじゃない性格だった。そのため家に友達を呼ぶのはすごく覚悟が必要でいつもどきどきしていたけれど、今のところ鉢合わせになったことはない。

 雪乃といれば、兄にも優しくされたし、この子がいれば怖いことなんか何もないと思った。

 

   ++

 

 男女混合体育なんて考えたのは、一体誰なんだろう。

 男と女が一緒に同じスポーツを学ぶ。それが男女平等への近道だとでも思ったのだろうか。

 実際のところ、真っ先にそれを取り組んだこの学校の体育は、地獄絵図そのものだった。

 ボールが目の前めがけて飛んできた。とっさに避けることも叶わず、私は顔面で食らった。あまりの痛さに涙が出てきてしゃがみ込むと、周りの男子たちが「てめえ、何避けてんだよ!!」と怒鳴り始めた。

「あそこはヘディングでパスだろうが!」

「全力で受けろ!命かけてボール止めろよ!」

 勝負事となると男子たちは、まるで積年の恨みを晴らすかのごとく獰猛な生き物になる。本当は相手のことを心底憎んでいて、なんとしても自分が勝ち残りたくて、そのためには暴力でも何でも使うのだということを、男女混合が導入してから私は気づいた。

「文絵、大丈夫?」

 雪乃が駆けつけてくれた。「顔が腫れてる。保健室に行こう」そう言って私を立たせてくれる。

 すぐさま男子たちがいらついたのがわかった。周り中から鋭い視線が注がれる。私は何も言えない。

「女っていいよなー。顔が腫れたくらいで保健室行けるんだぜ」

「本当に女って荷物だよな。サッカーもまともにできないんじゃさ」

 馬鹿にしたような笑いが漏れて、私はまた泣きそうになった。怒りに震えても、悔しくても、何か言い返したくても、先に涙が出てしまう。心はこんなにわだかまっているのに、私は何一つ抵抗できず、ずっと男子たちに舐められ続けるのだ。

 隣で支えてくれている雪乃の手が怒りで震えていた。男子たちがなおも暴言を吐き続けている。先生は来ない。チームがうまくいっている男女たちしか目に入っていないからだ。

「黙れ!!」

 高い怒号が空気を裂いて私たちの耳に響いた。男子たちの野次が止む。声のしたほうを振り返った。

 理穂が立っていた。太陽の光を受けて、明るい髪がさらにまばゆく輝いている。理穂は大股歩きでこちらに近寄ってきた。男子たちの目が険しくなる。

「何だよ、松田」

「俺たちもう六年だから、お前なんかに泣かされねえよ」

 理穂は動じず、騒ぐ男子たちをにらみで黙らせてから、私と雪乃を庇うようにして立った。

「男ってのは、戦う人間のことを指すんだよ。お前らなんか男じゃねえ。女いびって調子に乗ってるだけの、ただのチンポ勃起野郎だ」

 静かな声で語る理穂は、いっそう男らしく見えた。

 男子たちは押し黙った。

 その場にしばらくの緊張が走る。

 男子の一人が鼻を鳴らした。

「・・・言ってろ。お前らなんか女じゃねえよ」

 そう言い捨て、男子たちはボールを持って先生のところへ去っていった。私たちが生意気だと言いつけるつもりだろう。体育の先生も男なので、きっと男子の味方をするだろう。

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」

 理穂は遠ざかる背中を見つめ、中指を突き立てた。

 

 実加が合流して、私たちは四人そろって保健室へ向かった。校庭を抜ける途中で体育教師に見つかり、「保健室に行くのに四人も固まって行動する馬鹿がいるか!」と怒鳴られたが、全部無視して体育の授業を投げ出した。

 玄関で上履きに履き替える途中、頭が猛烈に痛くなった。しだいに車酔いのような気持ち悪さに襲われ、我慢できなくてそのまましゃがみ込み、唸ってしまった。すると理穂が私を背負ってくれて、雪乃と実加が身体を支えてくれた。保健室に到着すると、保険医の先生がすぐに飛んできてくれて私を抱え、ベッドにそっと寝かせてくれた。先生に今日あった出来事を全部ぶちまけると、私たちの心はいくらか軽くなった。

「あーちゃん、具合悪いの? 大丈夫?」

 小学三年生の由愛(ゆあ)ちゃんが私のそばに駆け寄ってくれた。由愛ちゃんは笑顔がとってもかわいい女の子だったけど、新しいクラスに馴染めず、今は時々保健室登校をする程度だ。今日は久しぶりに会うことができた。

 由愛ちゃんの小さな頭を撫でていると、扉がふいに開かれた。見るとクラスメイトの子たちが五人ほど固まって入ってきていた。私を攻撃する女子三人組は、この中にいない。

「みんなどうしたの?」

 雪乃が問いかけると、クラスの子たちはいたずらっぽく笑った。

「私たち、今日いきなり生理になっちゃったんです」

「だから急に具合悪くなっちゃったんです」

「という風に言うと、あの童貞くさい先生はすぐに休ませてくれます」

 ブハッと理穂が吹き出した。それにつられて私も笑ってしまった。笑いは全員に移って、先生も一緒になって馬鹿笑いをした。

 

(つづく)